[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第32回 定年の日の「忘れ物」

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

すれ違い続きだったBMWとの協業の末、ついに新型スープラの試作車がお目見えした。だが興奮も束の間、降ってきたのは「会社の論理」だった。定年が迫っても、技術者たちの戦いは終わらない。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、スバルとの共同でスポーツカー「86」を完成させ、その後はBMWとの共同で伝説の「スープラ」復活プロジェクトを始動させる。多田はBMWの工場への「トヨタ生産方式」導入と、2社共同の工場建設を目指すが、会社は認めなかった。

ロケットのような加速

 BMW研究開発センターは、ミュンヘンの本社から北東三キロの地に、東京ドーム十個分の敷地を抱える欧州最大規模の研究開発拠点である。



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