木村大作「クロサワのDNA」を継ぐ男

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松山ケンイチ、豊川悦司、蒼井優らが出演

映画『春を背負って』公開記念

黒澤明の薫陶を受け、老境に至ってメガホンを取った男は、今も荷を背負い3000mの山を登る。「日本一過酷なロケ」と言われる木村組の山岳撮影に本誌は密着。山上で語られた老監督の言葉とは。

撮影/渡辺幸雄(山岳写真家)

俺は黒澤明という人の信奉者なんだ

 富山県立山連峰。標高3000mを超える険しい山道を、映画監督・木村大作はゆっくりと、だが、74歳とは思えないしっかりとした足取りで登っていく。木村が立ち止まると、後に続く「木村組」のスタッフも一斉に足を止める。「この場所だ」。木村の声に一行はあわただしく撮影の準備に取りかかった。急斜面に据え付けられたカメラのファインダーを、木村は鋭い眼光で覗く。雲の流れ、光の入り方が気に入らない……最高の撮影条件が訪れるまで、彼はワンカットといえど、カメラを回そうとはしない。信奉する黒澤明がそうだったように。

 木村組のカメラに入っているのは、撮影後にデータを上書きして消せばいいデジタルディスクではなく、今では山田洋次ら2~3人しか使わなくなったカラーフィルムだ。一度撮ったら撮り直しはきかない。緊張の中、無言で監督の指示を待つスタッフたち。ようやく、彼の口から「スタート!」の声が飛び、木村の最新作『春を背負って』の撮影が始まった……。


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