[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第31回 カイゼンの伝道師、ドイツへ飛ぶ

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

海外の自動車業界でも「カイゼン」はそのまま通じる。「トヨタ生産方式」は、トヨタが世界の強豪と伍する原動力となった。この門外不出のノウハウを知り尽くす男が、BMWに乗り込もうとしている。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、スバルとの共同で2012年春に新型スポーツカー「86」を完成させた。その矢先、今度は「BMWとのスポーツカー共同開発」という任務を命じられる。多田は伝説の「スープラ」復活を期するが、トヨタ販売部門は予想販売台数を厳しく見積もっていた。

御曹司を一喝

 林南八(なんぱち)は、トヨタ自動車で技術職の最高位である「技監」に、取締役を挟んで二度、通算十一年間も就いた特異な技術者である。

 入社時はエンジン設計を希望していたのだが、工場の機械部技術員室に投げ込まれ、無駄を徹底的に排除するトヨタ生産方式を深め、広めることに会社人生を費やした。



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