[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第27回 エンジニアがバトンを渡すとき
社会 | 2021.08.20 |
トヨタ「特命エンジニア」の肖像
トヨタを引っ張る技術者集団「Z」の面々といえども、サラリーマンとしてのタイムリミットはある。ふと息をつくと、定年の壁が迫る。次の車の完成を見てから退きたい――ここからは時間との勝負だ。
清武英利(ノンフィクション作家)
トヨタを引っ張る技術者集団「Z」の面々といえども、サラリーマンとしてのタイムリミットはある。ふと息をつくと、定年の壁が迫る。次の車の完成を見てから退きたい――ここからは時間との勝負だ。
清武英利(ノンフィクション作家)
前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、富士重工業(現・スバル)との共同で、2012年春に新型スポーツカー「86」を完成させた。国内外を飛び回り、ネットも駆使してプロモーションに奔走する多田は、一方で「BMWとのスポーツカー共同開発」という極秘任務にも頭を悩ませていた。
「次のチーフ」を育てる
会社から戻ってくると、夫はぽつりと漏らした。
「スープラの発表には、携われないかもしれないな」
悄然とした響きだった。それを聞いて、多田浩美は哲哉の定年がいよいよ近いことを思い出し、こう考えた。
――ああ、それなら早く会社を辞めてくれた方がいいな。
「スープラの発表には、携われないかもしれないな」
悄然とした響きだった。それを聞いて、多田浩美は哲哉の定年がいよいよ近いことを思い出し、こう考えた。
――ああ、それなら早く会社を辞めてくれた方がいいな。
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