[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第23回 格好いいね、と妻たちは言った

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

寝ても覚めても車ばっかり。お父さんを会社に取られちゃった。そう愚痴っていた家族も、誇らしげな男たちの照れ笑いにつられて、思わず笑顔になった。ハチロク完成の夜――晩酌の味は格別だった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、特命を受けて名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んでいた。富士重工(現・スバル)とエンジンを共同開発し、社内の愛好者の意見からデザインを決定。人びとの想いを乗せて、ついに新生「86」が産声を上げる。

土曜も日曜もなかった

 新ハチロクが完成しそうだと聞いて、多田浩美はこの五年余、神経を張り詰めて暮らしていたことを思い起こした。



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