[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第22回 「工場のおやじ」がハチロクに乗った

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

油煙と火花を浴びて働く作業員たちがいなければ、どんなに優れた車だろうと形にならない。工場の第一線で半世紀あまりを生き、トヨタの足腰を支えてきた男は、復活を遂げるハチロクをどう見たのか。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んでいた。富士重工(現・スバル)とのエンジン開発に成功し、社内のスポーツカー愛好者の意見を募ってデザインを決定した多田は、試作車の完成に漕ぎつけようとしていた。

名刺の裏には「Oyaji」

 七十三歳になった河合満(かわいみつる)には、トヨタ自動車Executive Fellowという現役の肩書があるのだが、本人はほとんど関心を示さない。副社長に就くずっと前からそうだったが、「おやじ」と呼ばれるとひどく嬉しそうな顔をする。



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