[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第20回 二百人の社員と下した決断

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

車の出来を左右するデザインには、普通なら何重もの社内決裁がある。だが、トヨタが生み出そうとしているのは普通の車ではなかった。社内のスポーツカー愛好者たち、そして社長は何を感じたのか。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、特命を受けて名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んでいた。富士重工(現・スバル)とのエンジン共同試作に成功し、社内でも最大の関門と言われる製品企画会議を通過した多田は、いよいよデザイン案の作成と検討に差しかかった。

役員のデザイン審査

 トヨタ自動車の技術系社員の頂点に立っていたのが、代表取締役副社長の内山田竹志だった。以前にも記したが、チーフエンジニア時代に量産ハイブリッドカー・プリウスを苦心惨憺して開発し、「ミスター・ハイブリッド」とメディアでは紹介されている。控え目だが、後輩たちに「提案して相手にされなくても、必要だと信じるならやるべきだ」と熱く語ったり、「エンジニアの仕事のスタートは志で、その次は挑戦することだ」と語りかけたりするので、技術者の尊敬を集めていた。



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