[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第17回 乾坤一擲の役員プレゼン

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

「ただのスポーツカー」ではトヨタ役員たちの承認は得られない。新車開発で最大の関門をどう突破するのか。常識もプライドも捨てたチーフエンジニアの秘策は、またしても激論を巻き起こした。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、新型スポーツカー開発の特命を受け、名車「ハチロク」の系譜を引く車作りに着手した。富士重工業(現・スバル)とのエンジン共同試作に成功し、信頼できる部下をチームに招いた多田は、いよいよ企画承認の重要会議に臨もうとしていた。

大ブーイング

 人が右と言えば左、では左と言えばやっぱり右だ、と唱える臍(へそ)曲がりがいる。

 多田哲哉はそんな偏屈者ではないのだが、二〇〇九年五月十九日の製品企画会議を前にして、「新型スポーツカーのタイヤに、プリウスと同じものを使う」と言い出したとき、彼のなかに常人とは違った感覚を見出して驚き、ため息をついた者は少なくなかった。前回の「ジャイアン」と「のび太ーず」の話から、一年ほど前の出来事である。



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