[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第16回 チーム86の「ジャイアンとのび太」
社会 | 2021.04.29 |
トヨタ「特命エンジニア」の肖像
時間と予算を切り詰めて、品質は上げる。ものづくりとは、そんな矛盾した理想を追い求める仕事だ。「Z」に集う技術者たちなら皆心得ていることだが、その男が課すハードルの高さは群を抜いていた。
清武英利(ノンフィクション作家)
時間と予算を切り詰めて、品質は上げる。ものづくりとは、そんな矛盾した理想を追い求める仕事だ。「Z」に集う技術者たちなら皆心得ていることだが、その男が課すハードルの高さは群を抜いていた。
清武英利(ノンフィクション作家)
前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、新型スポーツカー開発の特命を言い渡され、名車「ハチロク」の系譜を引く車の開発を決意する。共同開発相手である富士重工(現・スバル)と衝突しながらも、多田はトヨタ虎の子の新技術「D-4S」を使ったエンジンの試作に成功した。
わがままな人たち
多田哲哉が率いるZ(ゼット)のスポーツカーチームには、小さな秘密があった。その一つは、三人の部下が多田をこっそり綽名(あだな)で呼んでいることである。「ジャイアン」という。漫画『ドラえもん』に登場するガキ大将のことだ。主人公の野比のび太をいじめたり、無理難題を押し付けたりする、クラスの乱暴者である。
会員の方は