[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第15回 ハチロクの「心臓」を作った男

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

多くのトヨタエンジニアが憧れる、名車ハチロク。その「心臓」を生み出したベテランが、新型スポーツカーのエンジン開発に絡む噂を聞きつけた。理想の車を作るには、この人を味方にするしかない。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、新型スポーツカー開発の特命を言い渡された。共同開発相手である富士重工(現・スバル)の技術者らと激論を交わし、社内の説得や根回しに駆け回った末、多田はトヨタ虎の子の新技術「D-4S」を使ったエンジン開発に着手しようとしていた。

頑固一徹のエンジン屋

「車をつくるというのは、絵描きが自分の絵を描いて売るのと同じなんです。信念をもって人にモノを売るということは、『自分の心でいいと思う、自分の心が入ったモノをつくる』ことだと思う」

 これは、トヨタ自動車で初代の技術部主査に就いた中村健也が残した言葉である。



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