[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第11回 「ミスター・ロードスター」の教え

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

儲からないはずのスポーツカーを作り続け、ファンに愛される会社が日本にもある。立役者の頭の中はどうなっているのか。教えを乞うたトヨタのエンジニアが投げかけられたのは、意外な一言だった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」のチーフエンジニア多田哲哉は'07年1月、スポーツカー開発の特命を言い渡された。技術提携相手である富士重工業(現・スバル)と議論を重ねた多田は、名車「ハチロク」の系譜を引くクルマの開発に乗り出す。富士重工が製造した試作車は、副社長の豊田章男にも好評を得た。

トヨタムラからの来訪者

 猿猴(えんこう)川は、広島駅前通りから南へと半円を描いて下る短い支流で、広島湾に近づくと川幅をぐんと広げ、自動車メーカー・マツダの本拠を二つに分ける。

 河口に向かって川の左手に本社ビルと本社工場、右手には渕崎工場、それに南の海手側に車を組み立てる宇品(うじな)工場が立ち並び、専用埠頭から自動車専用船が海外へ船出していく。国内シェア五位ながら、堂々たる大工場群である。



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