[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第9回 「A3用紙一枚」で役員たちを説得せよ
社会 | 2021.02.15 |
トヨタ「特命エンジニア」の肖像
トヨタには、報告事項をA3用紙に凝縮して伝える文化がある。トヨタのみならずスバルのエンジニアの想いも乗せて、動き出した開発計画。その浮沈を握る一枚の書類には、秘策が込められていた。
清武英利(ノンフィクション作家)
トヨタには、報告事項をA3用紙に凝縮して伝える文化がある。トヨタのみならずスバルのエンジニアの想いも乗せて、動き出した開発計画。その浮沈を握る一枚の書類には、秘策が込められていた。
清武英利(ノンフィクション作家)
前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は'07年1月、スポーツカー開発の特命を突如として言い渡された。技術提携相手である富士重工(現・スバル)のエンジニアらと議論を重ね、国内外のカーレースの現場を回って見聞を広げた多田は、作るべきクルマの姿を徐々に明確化させてゆく。
スバルの男の打ち明け話
「ちょっと外に出ませんか。うまいラーメン屋があるんですよ」
長い合同会議が終わり、多田哲哉は富士重工業(現・スバル)の技術開発部主査だった賚寛海(たもうひろみ)に声をかけた。賚はまだ課長級だったが、改まった会議でも言いにくいことをはっきりと口にするので、多田はてっきり二、三歳くらいしか歳が離れていないと思っていた。実は七つも年下の四十三歳なのである。
長い合同会議が終わり、多田哲哉は富士重工業(現・スバル)の技術開発部主査だった賚寛海(たもうひろみ)に声をかけた。賚はまだ課長級だったが、改まった会議でも言いにくいことをはっきりと口にするので、多田はてっきり二、三歳くらいしか歳が離れていないと思っていた。実は七つも年下の四十三歳なのである。
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