[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第8回 巨大カーレースの聖地で見たもの

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

どうすれば、いいスポーツカーを作れるか。答えを求めて、エンジニアはアメリカへ飛んだ。そこで出会ったのは、クルマを愛する市井の人びと、そしてレースに情熱と知性を懸けるプロたちだった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は'07年1月、長年途切れていたスポーツカー開発の特命を言い渡された。社内各所からの反発に直面し、技術提携相手である富士重工(現スバル)のエンジニアとの激論を経て、多田は少しずつ、自らの理想のスポーツカー像を見出してゆく。

メジャーリーグ級の熱狂

 青い水を張ったような大空の下に、砂漠の街の巨大なレーススタジアムはあった。

 全米から集まった無数のキャンピングカーが燦然たる太陽を浴びてキラキラと輝いている。その屋根に半裸の男たちがよじ登り、スタンドを埋めた七万人近い観衆とともに、その時を待っていた。



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