[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第7回 乗り込んできたスバル「異能の技術者」

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

新型スポーツカー共同開発に向けて、群馬の「スバル町」からエンジニアたちがトヨタ町へと降り立った。プライドも腕前も、トヨタの向こうを張る男たちだ。のっけから侃侃諤諤の議論が始まった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は'07年、長年途切れていたスポーツカー開発の特命を言い渡された。その背景には、トヨタとスバルの提携話があった。多田はスポーツカー好きの後輩・今井と新部署を立ち上げる。念頭にあったのは、名車「ハチロク」の復活だった。

「ヒコーキ野郎」の誇り

 トヨタ自動車の第九代社長に就いた張(ちょう)富士夫は、東京大学法学部を卒業して一九六〇年に入社している。本社のある愛知県豊田市を初めて訪れたとき、彼は駅頭に立って、その寂しさに嘆息を漏らした。そこにあったのは閑散として、歓楽の欠片もない、本社へと続く企業城下町である。



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