[長編ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第4回 出世レースから遠く離れて

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

伝説のスポーツカーを
復活させろ
――反骨技術者の挑戦

「もともと田舎の自動車会社」。創業70年を経て世界有数の企業となっても、トヨタ社員にはそんな自覚がある。いつでも成長のエンジンは「社長より偉い」と言われながらも、出世を求めぬ人々だった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/'07年1月、トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、長年途切れていたスポーツカー開発の特命を下された。背景には、次期社長・豊田章男の「スポーツカー復活」の意向、スバルとの業務提携という会社の思惑があった。だが多田は「この車は好き勝手に作る」という思いを固める。

「社長は主査の助っ人」

 社長を恐れない技術者が、トヨタ自動車にはいた。

 一人は一九五三年五月に、初代の技術部主査に就いた中村健也である。このとき、トヨタは社運を賭けた初の本格的乗用車「クラウン」を開発中で、技術部の中に主査室を発足させ、その開発責任者として中村を据えた。



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