大反響連載!国税は見ていた 第3話 「黒髪の美人調査官」と「海を渡った天才トレーダー」

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爽やかな笑顔でスッと相手の懐に入り、シンガポールに渡った大企業や富裕層の事情を掴む美人調査官。だが彼女ら調査官を警戒する「新富裕層」の中に、ひとり突出したトレーダーがいた――。

ジャーナリスト 清武英利

昼も夜も休む暇なく

 世界一生活費の高いシンガポールの金融街で、彼女は明るい空を見上げるように白く長い首を伸ばした。その後ろには、椰子の木に囲まれた21階建ての香港上海銀行(HSBC)ビルがそびえている。

 濃紺の丈の短い上着にローラアシュレイ風のワンピース。長い黒髪は毛先を内巻きにブローしていた。それが、シンガポールの新富裕層や金融関係者が警戒する国税庁の長期出張調査官の実像だった。寺田裕子は1995年の国税専門官(大卒)採用で、国税庁国際業務課からシンガポールに送り込まれている。その長期出張も2012年6月末で3年を迎え、長い特殊任務もようやく終わろうとしていた。国税庁の人事異動は毎年、確定申告の事務が一段落した7月上旬で、6月中に内示が行われるのだ。

 このころ国税庁は、彼女に「国税専門官の採用案内パンフレットのモデルになってもらいたい」と求めている。女優の本仮屋(もとかりや)ユイカに似た可憐な容姿とキャリアに着目したのであろう。あるいは、日本に帰任する日も近いのでそろそろ正体がわかってもいい、と判断したのかもしれない。



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