東京土地物語 第5回 四谷コーポラス、住民たちの60年

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欲望と記憶が刻まれて

初任給1万円の時代に23坪で233万円

日本初の民間分譲マンションが取り壊されるまで

「マンション」という言葉がまだなかった時代、都心に先進的な集合住宅が誕生した。管理組合、区分所有、ローン販売……。今では当たり前となったマンションのルールは、すべてここからはじまった。

平井康章(ノンフィクションライター)

近代マンションの「お手本」

「小学校5年生の時、このマンションの竣工と同時に引っ越してきて以来、建て替えまで61年住み続けたことになります。四谷はどこに行くのも便利な場所で、大学や職場が近くだったこともあり、愛着のある住まいでした。

 3LDKの部屋で、私には妹がいたのですが、それぞれの個室が貰えたことが嬉しくて。当時兄弟がいる小学生が個室を貰えるなんて滅多にないですからね。当初は精肉店や酒店の御用聞きが注文を取りに来て、各部屋に配達してくれたのを覚えています」



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