[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第30回 限界まで小さく、1グラムでも軽く

[ptitle]
トヨタ「特命エンジニア」の肖像

師匠が作り上げた伝説のスポーツカー「スープラ」を復活させる。技術者人生の集大成となるプロジェクトは、86よりもシビアな判断の連続だ。そして最大の障害は、なんと味方から飛び出してきた。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、富士重工業(現・スバル)との共同で、2012年春に新型スポーツカー「86」を完成させた。その矢先、今度は「BMWとのスポーツカー共同開発」という新たな任務を命じられる。多田は社内の「優秀な変わり者」を集め、開発と調整に奔走する

章男社長からのメール

 甲斐将行(かいまさゆき)がミュンヘンオフィス所長として赴任して半年後、風向きが変わった。BMWの担当役員がトヨタとの共同開発に積極的な技術者に交代し、本格的なスポーツカーを作ることを確認したのだった。連載28回目で紹介したクラウス・フレーリッヒの登場である。多田哲哉の定年まで残り二年半を切り、二〇一四年も暮れようとしていた。BMWの技術者も、新型スポーツカーは誕生させたいが一社では採算が取れない、という事情を抱えていたのである。



会員の方は