[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第28回 ゴーンに追われた「異能」との再会

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

30万人を超える巨大組織には、他の誰にも思いつかないことを考えている者が必ずいる。彼は苛烈なリストラに遭い、ライバルのトヨタへやって来た。いつも状況を打開するのは、そんな異質の才能だ。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、富士重工業(現・スバル)との共同で、2012年春に新型スポーツカー「86」を完成させた。売れ行きは好調だったが、今度は「BMWとのスポーツカー共同開発」という新たな任務を命じられ、調整に奔走する。多田の定年は4年後に迫っていた。

「あいつをあげますよ」

 トヨタ技術本館のZRチームにいた多田哲哉を訪ねて、隣の技術六号館から珍客が現れた。BMWとの共同プロジェクトが迷路に入っていた二〇一三年のことである。制御システム開発部の制御プラットフォーム開発室長だった。今後十年の車の進化を予測し、次世代の車のコンピューター制御について研究開発を進めていた部署である。



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