[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第25回 秘密指令「ミュンヘンへ飛べ」

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

言葉も文化も違うトヨタとスバルが、ぶつかり合って生み出したスポーツカーは売れに売れた。だが安堵も束の間、多田の前に次なるミッションが立ちはだかる。今度の相手は、異国の技術者たちだ。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んだ。富士重工(現・スバル)とエンジンを共同製作し、社内の愛好者の意見からデザインを決定。完成した新生「86」は、テレビCMなし、SNSを駆使した販売戦略で世に出ることとなった。

「快進撃」のささやかな宴

 二十五人前後も集まったのに、それを祝賀会と呼ぶ者がいないのは、技術者だけの宴会だったからである。エライ人が出席したわけではなく、始まりの挨拶もごく簡単なもので、コップを握ったままお預けを食らうこともなかった。



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