[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第21回 あんな男がトヨタにいたのか

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

歴史も気風も違うふたつの会社が、ひとつのスポーツカーを創る。理屈だけではうまくいかない。酒を酌み交わし、腹を割って話し、技術者同士が共感しなければ、この車は決して生まれなかった。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、特命を受けて名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んでいた。富士重工業とのエンジン共同試作に成功し、最大の関門・製品企画会議を通過した多田は、社内のスポーツカー愛好者の意見を募ってデザインを決定した。

トヨタ語とスバル語

 スバル町に近づいたとき、もう夜の帳(とばり)は降りて、戦前から栄えた企業城下町は夥しいネオンの光に包まれていた。トヨタ自動車のチーフデザイナー・古川高保は、群馬県太田市の低い街並みが眩(まばゆ)い光の中に浮かんでいるのを、車の中から見た。多田哲哉が率いるスポーツカープロジェクトに加わって間もない二〇〇八年の話である。



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