[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第19回 多数決なんて、もうやめよう

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

いくら走りが良くても、乗り味が面白くても、デザインがイマイチでは魅力は伝わらない。お偉方に任せていたら、つまらない顔の車になってしまう。スポーツカーに「普通」の二文字は似合わない。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は、特命を受けて名スポーツカー「ハチロク」の系譜を引く車作りに取り組んでいた。富士重工(現・スバル)とのエンジン共同試作に成功し、製品企画会議を通過した多田は、テストドライバーとも対話を重ね、理想のスポーツカーに近づいてゆく。

四階建ての「異才たちの砦」

 フサフサとした髭が、古川高保の鼻の下には蓄えられている。トヨタデザイン部のグループ長である。手入れしたあご鬚も備え、五十路過ぎて衰えを知らぬ髪をピンピンと逆立てていた。眼鏡の奥の丸い目をいつもギラギラ光らせていたから、「ミミズクに似ている」と言った人がいる。小型の猛禽類ということらしい。



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