[本格ノンフィクション連載]ゼットの人びと 第10回 プロトタイプに乗った豊田章男が告げたこと
社会 | 2021.02.25 |
トヨタ「特命エンジニア」の肖像
そのクルマは、一見すれば市販車と変わらない。だが内部には、莫大なカネのかかった特注部品が満載されている。ついに姿を現した試作車に、自らもレーサーとしての顔を持つ経営者が乗り込んだ。
清武英利(ノンフィクション作家)
そのクルマは、一見すれば市販車と変わらない。だが内部には、莫大なカネのかかった特注部品が満載されている。ついに姿を現した試作車に、自らもレーサーとしての顔を持つ経営者が乗り込んだ。
清武英利(ノンフィクション作家)
前回までのあらすじ/トヨタの中枢部署「Z」でチーフエンジニアを務める多田哲哉は'07年1月、スポーツカー開発の特命を言い渡された。技術提携相手である富士重工業(現・スバル)のエンジニアらと議論を重ねた多田は、スバル独自の「水平対向エンジン」を搭載し、トヨタの名車「ハチロク」の系譜を引くクルマの開発に乗り出す。
唯一の息抜き
――無理をして買ったのにな。
読みさしの小説を置いて、多田浩美は考えに耽(ふけ)った。夫の哲哉のために五年前、七百万円で購入したゴルフ会員権のことである。それはいいことなのだろうが、夫はスポーツカー作りに夢中になって、ゴルフのことを忘れてしまっているように見えた。
読みさしの小説を置いて、多田浩美は考えに耽(ふけ)った。夫の哲哉のために五年前、七百万円で購入したゴルフ会員権のことである。それはいいことなのだろうが、夫はスポーツカー作りに夢中になって、ゴルフのことを忘れてしまっているように見えた。
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