[新連載 本格ノンフィクション]ゼットの人びと 第3回 役員会議で下された「異例の決断」

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トヨタ「特命エンジニア」の肖像

「伝説のスポーツカー」復活に立ち上がった男たち

ミニバンならスポーツカーの何倍も売れるぞ。クルマ好きのトヨタ技術者たちは長年、上司にそう言い聞かされて頭を押さえつけられてきた。それがある会議を境に一変する。いったい何が起きたのか。

清武英利(ノンフィクション作家)

前回までのあらすじ/トヨタに中途入社したエンジニア・多田哲哉は、製品企画を担う部署「Z」でチーフエンジニアとしてヒット商品を連発する一方、仕事に面白みを感じられず憔悴していた。そんな中、多田に突然「スポーツカーを作れ」という指令が下る。戸惑いつつも喜びに浸る彼を、妻の浩美はホッとする思いで見つめていた。

親子二代でトヨタの男

 勢い込んでシャシー設計部に入ってきた長身の男を見て、主査の佐々木良典(よしのり)(四七)は意外に思った。チーフエンジニア・多田哲哉の溶けそうな笑顔がそこにあった。このところ、「つまらん、つまらん」と言っていた二つ年上の先輩である。



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