[巨弾本格ノンフィクション 連載開始]ゼットの人びと トヨタ「特命エンジニア」の肖像

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伝説的スポーツカーの復活劇。
その中心にいたのは、
中途入社の異才たちだった――

第1回
その男、はぐれ者につき

精鋭中の精鋭だけが背負うことを許される「Z」の文字。男はその一員に迎えられても、ただの会社の部品になるつもりはなかった。二〇〇七年に下った特命が、彼の人生を、そしてトヨタを一変させる。

清武英利(ノンフィクション作家)

もう車を作りたくない

 小針神明社(こばりしんめいしゃ)の鳥居を過ぎたあたりから家々の灯は絶え、闇のなかの田んぼが深閑と広がっていた。愛知県岡崎市の中心部から北西に六キロ、寒々とした農道である。

「やってられねえぜ」



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