なりもの ヤフー・井上雅博伝 第22回 夢は叶った、されど人生は続く/森 功

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大型連載
祖師谷団地が生んだインターネットの天才

箱根に総工費三〇億円の別荘を完成させた「なりもの」。欲望は止まるところを知らず、江の島、パリ、そしてホノルルにまで手を伸ばそうとする。使いきれないカネを手にした先に何を見たのか。

森 功(ノンフィクション作家)

前回まで/'05年4月、井上は箱根・仙石原に巨大な別荘を建築した。10台超のクラシックカーが並び、1台500万円のスピーカー、1万5000本の高級ワインにシガー専用のセラーなど、贅の限りを尽くしたものだった。

どうせなら「海」も買おう

 別荘の内覧写真には、リビングルームの向こうに寝室があった。井上雅博は、和モダンにしつらえたその寝室が気に入り、週末になると、そこで過ごした。箱根の別荘には和洋三タイプの寝室があり、それぞれに源泉かけ流しの個室温泉を備えていた。管理人として雇われたシェフの夫人がルームメンテナンスを担い、ゲストたちは銘々、畳やベッドで寛(くつろ)ぎ、湯につかる。そこは文字どおり都会の喧騒を離れた高級旅館のような趣向を凝らしていた。



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