曽野綾子[好評連載・改題]家族を見送るということ

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連載/第二十回
夫が見せた「けなげな沈黙」

 これから迎える高齢者社会にあって、「夫を」だけでなく、「家族を」看取ることこそ大きなテーマだと思っていたから、私は連載の題を「自宅で、夫を介護する」としたのだが、介護が始まってたった一年一ヵ月で、その状態は終わりを告げた。世の中のすべてのことは、そのように予測のできないものだという平凡で深い真理を、改めて確認するいい機会だということもできるし、三浦朱門という人は、口も態度もそっけなかったが、無言のうちにはたの人を思いやることのできる人だったから、看護人としての私の体力がそろそろ限界に来ていると察して、自分からこの世を辞去する方向に歩み出したのかもしれない。



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